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ジョブ型雇用とは何か (1)



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欧米企業の雇用制度と日本型雇用制度の違い



国内の主要企業が「ジョブ型」の雇用制度の導入に向け動き始めている、と経済主要紙をはじめ各種メデ ィアが取り上げ論じている。実際に弊社にも、ジョブ型雇用制度への移行を検討している、エーオンヒュ ーイットはどういった支援ができるのか提案をして欲しい、との問い合わせが増えている。

一体、ジョブ型雇用とは具体的にどのような雇用制度を指すのであろうか。一般的には、職務ごとに役割 や責任、職務内容、必要な能力などを明示した職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)を作成し、定 義された職務に相応しい人材に当該職務を担ってもらう雇用制度を指すことが多いようである。報酬水準 は当該職務の難易度・専門性に応じて決める、とされる。この点に関する弊社の認識は後述する。

人事制度は会社によって様々である。特に、日本を代表する主要大手企業では、優秀な人材が人事部に配 置され、これまで気が遠くなるような時間を掛けて、会社の事業フェーズの変革や時代の変化に合わせ て、何度も大きな人事制度改革を遂行してきた歴史がある。例えば 1990 年代以降、主要企業各社が相次 いで取り組んできた成果主義の導入や、2015 年以降、一部の先行する企業において為された、海外買収 を通じて拡大した海外事業と、国内事業のグレーディング制度の統一というのは一例である。 このように、ジョブ型雇用に移行する、という一見シンプルに見えるゴールを想定した場合も、まずスタ ート地点が各社大きく異なっているということを認識する必要がある。それと同時に、目指すべきジョブ 型雇用とは一体どのような状況を指すのか、到達したいゴール地点はどこなのか、という点について明確 なコンセンサスを得ておく必要がある。この点は、改革を遂行する実務チームだけでなく、Chief HR Officer や、人事担当役員なども含めて意思統一をしておく必要があるのは言うまでもない。このよう に、「ジョブ型」雇用制度の導入の検討を始める際に、スタート地点は各社各様で、ゴールは実は明確に イメージされていないことが多い。 なぜジョブ型雇用への移行が論じられているのか ジョブ型の雇用制度に移行すべきである、という議論は、大きな事業環境の変化を迎える中で、これまで の「日本型雇用制度」が限界を迎えているという論点を出発点としている。具体的には、学生を新卒で一 括採用し、入社後の集合研修や OJT 等のトレーニングを通じて、職業人としての能力・スキルを高めて いく。給与は職業人としての職務遂行能力を基準に設定された社内資格に応じて上がっていく仕組みを採 用しており、定期的な昇給を通じて徐々に給与額が増えていく。日本では解雇が実質的にかなり難しく、 中途市場で転職をする人材もここ 20 年で大きく増加したとは言え、社内でローテーションを何度か繰り 返しつつ、終身雇用で同じ会社で職業人としてのキャリアを全うする。 これらの日本型雇用制度は様々な点で限界を迎えている。理論的には多くの課題があると弊社では認識し ているものの、クライアントから聞こえてくる課題は、以下のような点に整理されることが多い。 1) 職責と処遇水準が見合っていない。年功と共に職能資格が上がった従業員が、処遇に見合った職務に 就いていない、または職責を担っていないことが多い。社内的な公平性に欠ける。 2) 各個人が果たすべき職務内容が明確でない。そのため、在宅勤務環境下で適切な評価が出来ない。新 卒採用時に、担当職務を決めることなく一括採用し、仕事を割り振ってきた。今後、在宅勤務を新常 態として前提とした場合に、各個人の貢献度を評価する上で職務を明確化する必要がある。 3) 特殊な技能を持つ人材の処遇に際し、職務内容を明確化しておきたい。高度専門人材には特別な職責 を課し、特殊な技能を前提としている。であるからこそ処遇も高い。これらの点をジョブ・ディスク リプションを作成することで整理したい。 4) 優秀な若手の離職が生じている。自分とあまり変わらない職務を担っている年長者が、自分より遥か に高い給与を得ている。将来的なビジョンを描けないとして離職してしまう。

これらは極めて実務的な課題認識であり、早急に改革に向けた取り組みをしていく必要がある。しかし、 一部の企業では、必ずしも緊急性の高い事項として捉えていないようである。人事は、M&A などとは異 なり、今すぐに取り組まないからといって急に会社や事業が成り立たなくなることはない、と言われるこ とがある。しかし、人事制度の変革には相応の時間が掛かることに加え、評価制度などは何年も実務で廻 していきながら課題を修正していく必要がある。会社が目指すべき姿を人事制度の中に落とし込んだ場合 であっても、それらが真に企業文化として体現し、根付いていくまでには長い年月を要するものである。 この観点からは、課題の解決に向けてすぐに取り組むことができるかどうかが、数年後の大きな差につな がるのである。

日本型雇用制度の本質的な課題とは 先に紹介したクライアントが認識している課題の他、経営の観点やコーポレート・ガバナンスの観点から も、日本型雇用制度は大きな課題を抱えていると弊社は認識している。以下に示す 4 つの課題点は、全て のクライアントから明示されるわけではない。しかし面白いことに、我々が日本の人事制度の特徴を欧米 のコンサルタントに説明する際に、これらのポイントが指摘されることが多いのである。 1) 職務・職責に見合わない高給を得ている従業員の存在は、人件費の増大を通じて、企業の競争力を大 きく減じさせる。 2) 職業人としての職務遂行能力は、確かに経験を通じて蓄積され、向上していくものである。しかしそ れらは企業の収益と連動するものではない。すなわち、職能資格制度は、報酬水準を決定する上での 一部を説明しうる要素に過ぎない。同等の職務・職責を担うマーケットにおける報酬水準の確認や、 事業の収益性・生産性を考慮しない報酬決定は、終身雇用制度と相俟って、中長期的に企業の競争力 に大きなダメージを与える。 3) ローテーション制度は、特定職務の専門家を育成するには明らかに不向きな制度である。特に、グロ ーバルな競争環境にある事業を遂行する状況を想定すると、競合する外資系企業では例えば 20 年以 上の職務経験を持つ百戦錬磨の専門家がリーダーとして関与するのに対し、日本企業ではつい先月に 異動してきた新しい部長が対峙しなくてはいけない状況も発生する。業務の引継ぎでノウハウが一部 消失することに加え、物理的な移動に伴うコストも大きい。新しい職場で人間関係の再構築も必要と なることから、COVID-19 の影響を考慮すれば、在宅勤務にも不向きな制度である。 4) 解雇をすることが出来ないという現行法は、成長性の低い産業に人材を滞留させることにつながる。 経済を発展させていく観点から、限りのある人材資源を高成長の産業に効率的に振り向けていく観点 から、解雇法制の見直しは必須である。

弊社では人事制度・報酬制度のグローバル展開を常に意識している。そのため、欧米だけでなくアジア地 域のコンサルタントと普段からかなりの情報交換をしている。「日本型」にこだわる論調は、グローバル との整合性を失わせる。「日本型のジョブ型雇用」などといったものは、海外企業の買収等を通じて更な るグローバル事業展開を進める企業は目指すべきではない。真摯に欧米企業の雇用プラクティスに関する 理解を深めた上で、各社が到達したいゴールを、明確にしていかなければならない。

欧米型のジョブ型雇用の考え方 上記に挙げた 4 つの点を、欧米企業の人事・雇用プラクティスの視点から少し細かく論じてみたい。ジョ ブ型雇用制度を論じる際に、参照されるのは欧米型の人事・雇用制度である。特に、事業のグローバル化 が進む企業において、人事制度の統一を図るべきか否かという点は、大きなポイントとなる。欧米型の人 4 事・雇用制度に関する誤解は数多く、正しい理解は欠かせない。筆者は日本の大手銀行に就職した後、20 年以上に渡って複数の欧米のグローバル企業での職務に就きながら日本企業・外資系企業のお客様と接し てきた。これらの経験も交えながら論じていく。

1) 欧米企業では、職務内容および職責に応じて、処遇内容が異なることが一般的である。そのため、処 遇と職務・職責のミスマッチは起こりにくい、というのは真実である。但し、欧米企業では、年齢や 業務経験年数に応じて報酬水準が上がっていくことはない、というのは誤りである。 職業人として報酬水準を上げていくためには、同じ職務の中であれば、より高い職責を担って高い貢 献をしていくことが必要となる。その中でも、職務グレード(職責に応じて定義されることが多い) が設定され、同じグレードの中でも報酬水準にレンジがあるため、必ずしもグレードが上がらない場 合も、レンジの中で一定の昇給をすることが一般的である。日本では物価上昇が長い期間に渡って抑 えられているため実感がないが、欧米ではこれらの昇給は物価上昇率を参照して議論される。 2) 報酬水準について、欧米企業ではマーケット競合他社の職務内容別・職責別の報酬水準を参考にし て、自社水準のポジショニングを毎年確認することが一般的である。通常、自社の報酬水準をマーケ ットと比較してどのポジショニングに置くべきか、報酬戦略として定めている。この報酬戦略に照ら して、毎年従業員に対して支払っている業績賞与も含めた総報酬が、意図した水準レンジに収まって いるのかを確認するのである。乖離がある場合、水準の是正の必要性について、人事部内の報酬(コ ンペンセーション)担当者は検討する職責を負っている。マーケット報酬水準とのミスマッチを背景 とした退職が起こらないよう、常に配慮が為されている。 この点、職能資格に基づく報酬決定というのは、外部マーケットではなく、社内価値に重点を置いた 方法であると言える。大企業から、40 歳を超えて転職しようとする人材が、(何が出来るのか、と いう質問に対して)私は課長ができます、というのが笑い話となったことがある。この点からも、社 内価値と外部マーケットは乖離しているであろうことが想像できるであろう。 ジョブ・エバリュエーション(職務価値評価)を実施して、その点数によって報酬水準を決める、と いう方法もある。但し多くの場合、残念ながらこれらの点数とマーケットにおける報酬水準は乖離す ることが多い。ジョブ・エバリュエーションは弊社でも数多く実施しているが、あくまで社内におけ る様々な職務やジョブファミリー間の横串を通し、社内グレードを設計し、定義する目的で実施する に留めるよう助言することが多い。ジョブ・エバリュエーションによる点数を用いて報酬水準を決定 するという発想は、マーケットを無視した独りよがりな制度と言えるであろう。

事業の収益性・生産性をどのように報酬に反映させていくべきか。これは非常に難しい課題である。 この点、ローテーション制度を前提とする大手企業において、事業部門長が明確に収益責任を負って いないケースが日本では非常に多いと弊社では認識している。ここで収益責任とは、トップラインの 売上高(Revenue)と、売上原価や人件費、経費を差し引いた支払利息・税金控除前利益までの責任 を指す。自らが達成すべき売上高や利益水準が明確に職責に含まれる場合、コストとしての報酬水準 5 や、人員数(ヘッドカウント)に関する管理責任も当然に負う必要がある。売上高や収益に貢献しな い人材が欧米では生き残れない、という背景には、事業部門長が収益(P/L)責任を明確に負ってい るという事実がある。もちろん、フロント業務とバックオフィス業務の議論は別である点には留意が 必要である。この点について、弊社で数多くの知見を有しているが、ここでは詳述しない。 「人員数は人事部が管理しているので、自らコントロールができない」「賞与の評価は人事部が最終 的に決定する」といった嘆きが事業部サイドから聞かれるケースがある。残念ながら、こういった議 論は、事業部門長が明確な収益責任を負っていないことの証左であると言わざるを得ない。最適な人 員構成や、生産性(一人当たり売上高/営業利益など)などの議論が日本であまり為されないのは、 事業責任の所在が明確でないことが原因の一つであろう。

3) 欧米企業ではローテーションがない、というのも誤った認識である。各人のキャリア構築をする上 で、長期的な会社の成功につなげる観点から、他部門での経験や、海外拠点での経験が必要であると 判断されれば、当然それらのローテーションは実施される。これらは、「モビリティ」と呼ばれるこ とが一般的である。 これ以外にも、人材が異動することは多く見られる。例えば、典型的にフロント部署は収益計上が強 く求められることから、業務上のストレスが高い場合がある。両親の介護や子供の誕生などを契機と して、少しワークライフバランスを変えたいと考えることもあるだろう。この場合、ある程度社内で 高い評価を得ている従業員であれば、例えばフロントでの業務経験を活かして人事のビジネスパート ナーの職務に就いたり、コンプライアンスに異動するといったこともある。一度雇用して、高い貢献 をした従業員を維持していこうとする発想も、多くの欧米企業で見られる雇用プラクティスである。 これに対し、幅広く様々な職務経験を積むことを主眼として、国内営業部門から経営企画部への異 動、その後海外のフロント部門に異動、帰国後にグローバル人事部に異動、などといったローテーシ ョンは欧米企業では殆ど見られない。採用段階で、部門別に採用しており、その会社に留まる限り は、同部門において職務経験を積み、職責や役割を拡大させていくという考え方が基本である。 このような、ゼネラリスト・キャリアを想定した日本型の雇用下では、特定の職務において専門的な 経験を積む機会が限られてしまう。短期間で新しい職務にキャッチアップする能力に非常に長けた人 を現場ではよく見るが、そういった優秀な人材が欧米系の外資系企業に転職しようとすると、特定の 職務経験の少なさから、ジュニアなポジションを提示されることになる。若手から外資系に転じてい くのは、提示されるジュニア・ポジションと現在の会社におけるグレードとのバランスが取れている 段階であることによる。様々なローテーションを経て、国内大手企業で管理職グレードに到達した人 材は、今から 10 歳以上若い人材を上司として、報酬水準を落とし、外資系にてジュニア・ポジショ ンから再スタートを切ることは難しい。 4) 欧米企業では解雇は一般的に為される、というのも大きな誤解である。日本法人であれば、当然国内 の労働基準法に服する必要がある。ここでは詳しくは述べないが、欧米の外資系企業が人員削減を行 う場合には、日本の法規制に照らして問題の無い形で為されることになる。

日本企業に向けた羅針盤 このように日本型雇用と、欧米企業の雇用プラクティスの違いを見ていくと、ジョブ・ディスクリプショ ンを作成し、その中で定義された職務に相応しい人材に当該職務を担ってもらう雇用制度を作るのが「ジ ョブ型」雇用制度である、という論調は不十分であることがお分かりいただけると思う。これらは、取り 組むべき大きな人事制度改革のごく一部に過ぎない。業績責任の所在をどうするか、それに合わせて組織 をどのように変革させるのか。グレーディング制度をどのように設計し、グローバル全体でどのように整 合性を確保するのか。各グレードにどのような役割期待を持たせるのか。ローテーション制度をどうする のか。組織の業績評価と個人の評価をどのように実施するか、KPI として用いる指標は何か。そしてどの ように組織や個人の業績・貢献に対して報酬で報いていくのか。これらの点を俯瞰して見ながら、全体像 を見失わないようにする必要がある。 大企業において、グループ内に存在するジョブの数は万単位になることはざらである。これら一つひとつ について、インタビューを実施し、ジョブ・ディスクリプションを作って行こうとすると、恐らく数年を 要し、外部委託すれば膨大なコンサルティング費用を支払うことになるであろう。もちろん、辞書化した ジョブ・ディスクリプションは管理不能なサイズになるだけでなく、変化の激しい事業環境下において、 作成が完了するころには多くのジョブが変容し、また既に無くなってしまっている可能性が高い。ジョ ブ・ディスクリプションの作成そのものが目的化してはならないのである。 ジョブ型雇用への転換。これは人事のグローバル化が遅れた日本企業にとって、変革に向けた大きなチャ ンスである。到達すべき場所を見誤ってはならない。COVID-19 の影響下でも、後回しにすることなくス ピード感を持って進める企業が、競合する企業を大きく引き離す機会を得るであろう。

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